「そりゃ……普通、言わないんじゃない? アリアちゃんから聞いた? “私、掃除できるよ”とか、“洗濯できるよ”って」
ユウヤが少し疑うような口調で問いかけると、シャルは呆れたように肩をすくめた。
(……そりゃ、そうか。いちいち「私、家事できるよ!」とか「料理得意なんだー!」って言ってくる子の方が、ちょっと引くよな……)
ユウヤは、シャルの言葉に妙に納得してしまった。
「……そっか。いちいち言わないかぁ」
シャルは、どこか気まずそうに視線を逸らしながらも、真剣な眼差しをこちらに向けていた。
その姿を見ていると、ユウヤの中にあった「突き放すつもりだった」という決意が、少しずつ揺らいでいくのを感じた。
(……必死すぎる。なんか、かわいそうになってきたな……)
シャルの目は、ただの意地やプライドじゃない。何かを取り戻したいという、真っ直ぐな気持ちが宿っていた。
(……どうしよう)
ユウヤは、心の中で静かに問いかけていた。突き放すべきか、それとも――もう一度、信じてみるべきか。
「じゃあ……約束するなら、いいけど……?」
ユウヤは少し考え込んだあと、慎重に条件を口にした。シャルは身を乗り出すようにして、真剣な目で問い返す。
「何を?」
「アリアと俺の邪魔をするなよ? それと、俺かアリアが“ダメ”って言ったら、ちゃんと従え。前みたいに“魔物の観察に行きたい”とか“討伐に行きたい”って言っても、止められたら素直に聞くこと。いいな?」
ユウヤの声は、あくまで冷静だったが、その裏には「信じたいけど、もう裏切られたくない」という思いがにじんでいた。
(この約束を守ってくれるなら……まあ、いいかな。守れるかは正直心配だけど……今のシャルは、前よりずっと大人しくなってるし、大丈夫かもな)
「……うん。わかった。従うよ。でも……意見は言ってもいいんでしょ? それもダメ……?」
シャルは少し不満そうに眉を寄せながらも、ユウヤの条件に頷いた。
(ああ……やっぱり意見は言うつもりなんだな。まあ、シャルだしな。変なこと言わなきゃいいけど……)
「意見は言ってもいい。でも、余計なことは言うなよ。俺とアリアが仲良くしてるのを邪魔するようなこととか、そういうのは絶対にナシだ」
ユウヤは、釘を刺すようにきっぱりと言った。
「うん……。じゃあ、私とは……前みたいな感じは? 友達みたいな感じなら、いいでしょ?」
シャルは、少し遠慮がちに尋ねた。その声には、かつてのような強引さはなく、ただ静かに“居場所”を求める響きがあった。
(……友達みたいな感じなら、まあいいか。あ、そうだ。ミーシャのことも伝えておかないとな。獣人差別とか、まさかしないよな……?)
ユウヤは、ふと頭の中で次の懸念を思い浮かべた。シャルの性格を知っているからこそ、慎重に進める必要がある。
「それと……獣人の女の子もいるんだけど……」
ユウヤが少し様子をうかがうように告げると、シャルの目がぱっと輝いた。
「ホント? どんな子?」
「ネコ耳の女の子」
「わぁ〜! そんな子と一緒にいるんだぁ……いいなぁ……」
その反応に、ユウヤは思わず眉をひそめた。
(……なにこれ。従順すぎる。昔のシャルじゃないみたいだ。前はもっと男勝りで、ズバズバ言ってたのに……)
シャルの変化に、ユウヤは戸惑いを隠せなかった。
♢帰宅、そして再会その後、両親に「しばらく帰れない」と伝えたあと、シャルと一緒に服屋に立ち寄り、ミーシャ用の服を数着購入して帰宅した。
「ただいまぁ〜」
玄関の扉を開けて声をかけると、アリアがぱっと顔を上げ、シャルの姿を見て驚いたように目を見開いた。一方、ミーシャは警戒心をあらわにし、物陰にさっと隠れてしまった。
「シャルちゃん……久しぶりだね」
アリアは少し戸惑いながらも、落ち着いた声で挨拶をした。
「アリアちゃん、私も……ユウくんと同じパーティに入れてくれないかなぁ……?」
シャルは、まっすぐにアリアを見つめながら、はっきりと願い出た。
アリアは一瞬だけユウヤの方を見たが、すぐに微笑んで頷いた。
「シャルちゃんなら、いいよ。ユウくんの元々のパーティメンバーでしょ?」
小さな村では、誰が誰と仲が良いか、どのパーティを組んでいるかはすぐに噂になる。アリアも、ユウヤとシャルの過去を知っていたからこそ、すんなりと受け入れたのだった。
「勝手に連れてきて……本当にごめんね」
ユウヤが静かに謝ると、シャルは少し俯きながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「あのね……私、死にそうになっちゃって……。それから、冒険者を続けるのが怖くなっちゃって……魔物や魔獣の討伐に行けなくなってたの」
その声はかすかに震えていて、どこか自分を責めているようだった。
「そうだったんだ……」
アリアは、シャルの告白に驚きながらも、優しく頷いた。その表情には、責める気配は一切なく、ただ静かに寄り添うような同情がにじんでいた。
ユウヤは、シャルを連れて村長のもとへ向かった。元々3人でパーティを組んでいたこと、そしてシャルが休んでいた理由が事実であることを丁寧に説明した。
♢ミーシャの信頼と不安の払拭 ミーシャは目を輝かせながら、双剣を抱きしめるようにして尋ねてくる。「……俺の近くでな? 絶対に離れるなよ。」「はぁい♪」 ミーシャは嬉しそうに頷いたが、その無邪気な笑顔に、ふと胸がざわつく。魔獣が怖くないのか?両親を魔獣に殺されたと聞いていた。普通なら、トラウマになっていてもおかしくないはずだ。「……ミーシャ。魔獣が怖くないのか?」 俺がそう尋ねると、ミーシャはにっこりと笑って答えた。「怖かったよ。でも……ユウちゃんが倒してくれるし、守ってくれるから。だから、もう怖くないの。」 その笑顔は、あまりにもまっすぐで、あまりにも信じきっていて──俺は、何も言えなくなった。♢新たなパーティ編成と秘められた力 食事を終え、討伐の準備を整えて家を出ると、俺たちは裏庭から森へと足を踏み入れた。「そういえば……聞きそびれてたんだけど、この家って?」 シャルが後ろから声をかけてくる。振り返りながら、俺はあっさりと答えた。「あぁ。この家は、俺の家だよ。」「は?えぇ?ユウくんの家なの!?」 シャルは目を丸くして、驚いた声を上げた。(まあ、実際に登録されてるのは俺の名前らしいしな。)「その代わり、魔獣の討伐をするっていう契約付きだけどね。」「それで、魔獣の討伐をしてるんだ〜」 シャルは納得したように頷いたが、ふと表情が曇る。その目元に、どこか寂しげな影が差していた。「どうしたんだ?これから一緒に魔獣の討伐に行くんだぞ?」 俺が問いかけると、シャルは少し照れたように視線を逸らしながら言った。「えっと……その……私も、一緒に住んじゃダメ?」(ん? 家の話をしただけだけど……パーティの拠点ってことでアリアとも話
♢信じる心と新しい服「え? これ……軽すぎるって!」 シャルは剣士だ。剣の重さが戦いにおいてどれほど重要か、よく理解している。「これじゃ……魔物や魔獣に当てられても、倒せないよ?」 不安そうに剣を見つめながら、シャルは眉をひそめる。「ま〜、当てられるなら十分に倒せるようになってるって。午後に討伐に行くから、そこで試してみて? 嫌なら元に戻すしさ。」 俺がそう言うと、シャルはしばらく剣を見つめたあと、小さく頷いた。「……う、うん。わかった……」 口ではそう言っても、彼女の表情にはまだ不安が残っている。けれど、その奥にはほんの少しだけ、期待の色も見えた。「ミーシャ〜。ミーシャにもプレゼント、買ってきたぞ〜」 ユウヤは、もう一人の少女――ミーシャに向かって声をかけた。「わぁっ!え?なになにぃ〜?美味しいのぉー?」 ミーシャは目を輝かせながら、ぱたぱたと駆け寄ってくる。その瞳は期待に満ちていて、まるでお菓子でももらえるかのような勢いだった。「いや、美味しくはないけど……着替えは必要だろ?」 そう言って、ユウヤは包みから新しいワンピースを取り出した。淡いミントグリーンの生地に、小さな白いリボンがあしらわれた、春風のように優しいデザインだ。「わぁ〜……かわいい〜っ!」 ミーシャは目を丸くして、ワンピースを両手でそっと受け取る。そのまま胸にぎゅっと抱きしめると、にっこりと笑ってユウヤを見上げた。「ありがとう、ユウちゃんっ!これ、すっごく気に入った〜!」 その笑顔は、まるで花が咲いたように明るくて、ユウヤの胸にじんわりと温かさが広がった。「わー♪ うん……必要だね〜。かわいい……着てもいい?」「うん。着替えてきなよ。」「うんっ、着替える〜!」 ミーシャは嬉しそうに頷くと、なんのためらいもなくその場でワンピースを脱ぎ始めた。あっという間に、可愛らしいハート柄のパンツ姿になり、にこにこと新しいワンピースに袖を通していく。「……かわいー?」 着替え終わったミーシャがくるりと回って見せると、アリアがアワアワと焦った様子で手を振っていた。「ミ、ミーシャちゃんっ!?ここで着替えちゃダメだよぉ……!」 それでも、ミーシャの姿を見たアリアは、思わず笑顔になっていた。「ミーシャ。ここはリビングなんだから、ちゃんと部屋で着替えないと。」「え〜、
♢村長の反応と家での様子 村長は話を聞き終えると、ゆっくりと頷いた。「その方からも……敵意や害意は感じられませんし……問題はないでしょう。それにしても、午前中の魔獣の討伐は見事でしたな。先ほど、見回りの者から報告を受けました」 そう言いながらも、村長の表情はどこか硬く、ごまかすように討伐の成果を褒めてきた。(……あれ? なんか表情が微妙だな。見回りしてたのか……確認のためか? まあ、魔獣が大量発生してるし、警戒してるのも当然か) ユウヤは、村長の反応に少し引っかかりながらも、挨拶と報告を終えて家へと戻った。「「ただいまぁ〜」」 ユウヤとシャルが声を揃えて帰宅すると、ミーシャがちらちらとシャルの様子を気にしながらも、すぐにユウヤのもとへ駆け寄ってきた。「ユウちゃ〜んっ!」 そのまま勢いよく抱きついてくるミーシャを、ユウヤは笑いながら受け止め、頭を優しく撫でた。「わぁ……可愛い子と住んでるんだね」 シャルは、ミーシャを見て感嘆の声を漏らした。「だろー? 可愛いよな〜」 ユウヤは、ミーシャを抱きかかえたままソファに腰を下ろし、頬をすり寄せてくる彼女を優しく抱きしめた。「っていうか……アリアちゃん、いいの? あそこ、めっちゃイチャイチャしてるけど?」 シャルがジト目でこちらを見ながら、アリアに向かって報告のように言う。ミーシャがユウヤに向かい合って抱きつき、頬ずりしている様子を見てのことだった。(……余計なこと言うなって言ったのに。別にいいけどさ、感じ悪いっての)「え? うん。三人で仲良くしてるよ……って、ミーシャちゃん、甘えすぎだよぉ〜!」 ちょうどそのとき、ミーシャがユウヤの頬にすり寄っていたのを見て、アリアが慌てたように駆け寄ってきた。「うにゃ
「そりゃ……普通、言わないんじゃない? アリアちゃんから聞いた? “私、掃除できるよ”とか、“洗濯できるよ”って」 ユウヤが少し疑うような口調で問いかけると、シャルは呆れたように肩をすくめた。(……そりゃ、そうか。いちいち「私、家事できるよ!」とか「料理得意なんだー!」って言ってくる子の方が、ちょっと引くよな……) ユウヤは、シャルの言葉に妙に納得してしまった。「……そっか。いちいち言わないかぁ」 シャルは、どこか気まずそうに視線を逸らしながらも、真剣な眼差しをこちらに向けていた。 その姿を見ていると、ユウヤの中にあった「突き放すつもりだった」という決意が、少しずつ揺らいでいくのを感じた。(……必死すぎる。なんか、かわいそうになってきたな……) シャルの目は、ただの意地やプライドじゃない。何かを取り戻したいという、真っ直ぐな気持ちが宿っていた。(……どうしよう) ユウヤは、心の中で静かに問いかけていた。突き放すべきか、それとも――もう一度、信じてみるべきか。「じゃあ……約束するなら、いいけど……?」 ユウヤは少し考え込んだあと、慎重に条件を口にした。シャルは身を乗り出すようにして、真剣な目で問い返す。「何を?」「アリアと俺の邪魔をするなよ? それと、俺かアリアが“ダメ”って言ったら、ちゃんと従え。前みたいに“魔物の観察に行きたい”とか“討伐に行きたい”って言っても、止められたら素直に聞くこと。いいな?」 ユウヤの声は、あくまで冷静だったが、その裏には「信じたいけど、もう裏切られたくない」という思いがにじんでいた。(この約束を守ってくれるなら&h
♢拒絶と懇願「はぁ? 仲良くしてた男子がいただろ?」 ユウヤがとぼけるように言うと、シャルはさらに語気を強めた。「だーかーらー! あの時だけ遊んでただけで、あれから会ってないしー!」「その時に上手くいかなかったからって、戻ってこられても困るって!」 ユウヤは、容赦なく言い放った。その声には、怒りというよりも、どこか突き放すような冷たさがあった。 シャルは一瞬、言葉を失ったように口を開いたまま立ち尽くした。「上手くいくとか、意味わかんないしっ! 好きでもないし、ただ……村を彷徨いてて、楽しそうに遊んでたから一緒に遊んだだけだし!」 シャルは顔を真っ赤にして、必死に弁解した。声が少し震えていた。「そうなのか? 一週間以上、一緒にいたよな?」 ユウヤは淡々と問い返す。その声には、どこか冷めた響きがあった。「それは……魔獣の討伐に行くのが怖くて……忘れたかっただけだよ……」(ふぅん……それ、何度も聞いたな。だったら、相談に来てくれてもよかっただろ? まあ、もうどうでもいいけど) ユウヤは、心の中でため息をつきながら、あえて突き放すように言葉を選んだ。「だったら、そのまま忘れて、その男子と遊んでればよかったじゃん?」「ダメなのっ! それじゃダメなのっ! ユウくんと一緒がいいの!」 シャルは、ユウヤの言葉を遮るように叫んだ。その声は、怒りでも悲しみでもなく、ただ必死だった。目には涙がにじみ、唇はかすかに震えている。(はぁ? 俺とじゃなきゃダメって……別に俺がいなくても、前衛なら他のパーティでも引く手あまただろ? 前衛はハードだけど、魔術師希望ばっかりで人手不足だし) ユウヤは、心の中で冷静に分析しながらも、口に出した言葉はきっぱりとしていた。「だから俺にはアリアがいるし、もう遅いって」 その一
♢優しさに包まれて「はぁい、よく頑張りましたぁ〜♪」 その声はどこかお姉さんぶっていて、けれど優しさに満ちていた。ユウヤの髪を優しく撫でるアリアの手は、どこかくすぐったい。 その様子を見ていたミーシャが、ぱたぱたと駆け寄ってきた。そして、アリアの真似をするように、ユウヤの頭に小さな手をそっと乗せた。 ミーシャの手はとても小さくて、まるで子猫に撫でられているような感覚だった。「あはは……♪ ユウくん、子どもみたーいっ」 ミーシャは、くすくすと笑いながら、ユウヤの頭を撫で続ける。「……いいじゃん。他に人がいないんだしさ……」 ユウヤは照れ隠しのように言い返したが、その声はどこか弱々しく、耳までほんのり赤く染まっていた。 すると、ミーシャがぱっと指を差してきた。「ユウちゃん、顔があかーい♪」 その無邪気な声に、アリアもつられて笑い出す。「ほんとだ〜。照れてる照れてる〜♪」「……うるさいなぁ」 ユウヤは顔をそむけながらも、どこか嬉しそうだった。 森の中に、三人の笑い声が穏やかに響いていた。それは、まるで家族のような、あたたかい時間だった。♢魔改造キッチンとそれぞれの仕事 家に帰ると、アリアが玄関をくぐった瞬間、驚いたような声を上げた。「ゆ、ユウくん、ユウくんっ! なにこれ!? なんか変だよ……っ!」 その声にユウヤはハッとした。(ああっ……忘れてた。昨日の夜、調子に乗ってキッチンも魔改造してたんだった……) ユウヤはバツの悪そうな顔で頭を掻いた。「あ……それ、昨日の夜さ。一人で暇だったから……。俺、料理も家事もできないし、手伝えないからさ。アリアに少しでもラクして